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未来の通信・初夢98

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※この文書は、1998年に情報通信総合研究所で行われた国領ゼミでの自由研究が元になっています

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1.ある女医の話
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 ・インターネット診察
 ・感覚通信
 ・処方箋ホームページ
 ・薬局の宅配サービス

 ここは東京近郊の住宅地です。私は女医でクリニックをやっています。たいてい午前中は外来を診ていて、午後はインターネットでクリニックに来られない人を診察しています。このインターネット診察も3年前から『感覚通信』が医療の現場に導入されたので、患者さんの痛みを直接感じることができ、ずいぶんやりやすくなりました。昔は「どこが痛いですか?背中ですか?脇腹ですか?どんな痛みですか?」とか聞いていたものでした。あまりしゃべれないお年寄りや、日本語に不慣れな外国の方などの場合、ひと苦労でした。

 『感覚通信』が実用化される前はバーチャルリアリティゲームぐらいにしか使われないだろうなんて言われていましたが、実際にはこのような医療とか、危険な場所や人の行けない例えば宇宙ステーション工場での職人芸的な精密作業といったところで多く使われていて、非常に便利です。でも、使い方を誤るとこちらが激痛のあまりショック症状を起こしてしまうことがあるので注意が必要です。

 インターネット診察をしたら、患者さんの近くの薬局に処方箋を通知しています。これはある製薬会社が提供しているホームページで、病名を入力するとそれに関連する薬一覧が表示されます。そこで必要な薬を指定し、患者さんの住所を入力すれば近くの薬局に自動的に通知されるようになっています。それと同時に、患者さんのところへ薬局までの地図と薬の服用方法がメールされます。もちろん、医療点数の計算や申告も自動的にやってくれるので、とても便利です。事務の手間が大幅に減ったので、患者さんと充分話したり、新しい治療法を勉強する時間ができてきました。

 それに、最近は規制緩和のおかげで薬局から患者さんの家まで配達するサービスもできるようになり、あまり動けない患者さんはとても喜んでいます。

 

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2.ある通勤ビジネスマンの話
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 ・通勤ビジネスマン/SOHOビジネスマン
 ・MDつきインターネットテレビ
 ・学級電子新聞
 ・情報検索エージェント
 ・MDプレーヤーでインターネットニュース
 ・MDプレーヤーのふた全面がタッチパネル
 ・MDプレーヤーから直接プリントアウト

 私は年々少なくなっている通勤ビジネスマンだ。情報省の統計では、通勤ビジネスマンよりSOHOビジネスマンの方が多い地域は今後ますます増えていくとのことだ。

 朝、いつもインターネットテレビにニュースが届けられる。もちろん、自分の指定した分野のニュースだけを自動フィルタリングして届けてくれる。それをテレビについているMDに自動保存してくれる。わが家のは家庭用のテレビなので、5枚のMDにそれぞれ異なるフィルタリングで保存できるようになっている。

 先日うっかり娘のMDを取り出したら、ひどく怒られた。男性アイドル歌手の新曲情報ぐらいしかないんだろうと思っていたら、実は学級電子新聞でピラミッド特集をやるので、そのレポートのネタを集めていたのだ。前の日に学術情報検索エージェント(レベル:高校高学年)をネットワーク上に放っておいて、その結果をそのMDに自動記録するようにしておいたらしい。我が娘ながら立派になったものだ。

 通勤電車の中でみんなポータブルMDプレーヤーで今日のニュースを聞いている。何人かは旧態依然に新聞を広げて読んでいる人もいるが、あれは迷惑だ。ちょっとは周囲の人のことを考えて欲しい。今までのままのやり方でやりたいという気持ちはわからないでもないが。

 このMDプレーヤーは最新型で、ふた全面がタッチパネルカラーディスプレイになっているので、今朝テレビからダウンロードした記事の中から必要な記事を見てピックアップして聞けるので、とても使いやすい。

 今日のニュースに「感情工学研究所、感情波の検出に成功」というのがあった。弟の研究所だ。さっそく聞いてみることにした。

 会社に来てから、そのニュースをMDプレーヤーからプリントアウトして再度じっくり読み直して考えた。検出できたという事は、そのうち記録しておいたり通信回線で相手に送ったりする事ができるようになるかもしれないな、と思った。今、女房がインターネット診察をやるとき『感覚通信』を活用しているから、そのうち『感情通信』というのも一般的になるのかな、と漠然と考えた。

 

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3.ある研究者の話
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 ・感情工学研究所
 ・感情波

 マスコミには「感情波の検出に成功。検出装置実用化にメド」とだけ発表したが、実は記録することまでももうできている。というより、実はこっちの方が先に開発されていたのだ。記録できると発表しなかったのは、悪用されるのが恐ろしいからだ。

 記録できるということは、再生できるという事である。ということは、これで相手に思い通りの感情を起こさせることができてしまうのではないか。たとえば、「楽しい」という感情波を浴びれば、その人は悲しみに打ちひしがれていたとしても何となく楽しくなってしまう。鬱病の治療とかには光明かもしれないが、悪用すれば感情のコントロールができることになってしまうのだ。

 

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4.あるSOHOサラリーマンの話
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 ・バーチャル会議
 ・BGT(バック・グラウンド・テクスチャー)
 ・色、模様、音楽の雰囲気への影響
 ・公衆バーチャル会議室
 ・貸しバーチャル会議室屋

 俺は長野に住んでいて、SOHOで仕事をしているいわゆるSOHOビジネスマンだ。今日は俺の属しているプロジェクトのメンバのバーチャル会議だ。12カ国、30カ所を結んだものだ。今回は俺が議長役なので、俺の選んだBGMとBGT(バック・グラウンド・テクスチャー;背景模様、壁紙)とを指定している。今日は新しいアイディアの発表があるので、明るく活発な配色にした。曲の方は秘書がわりのワイフが選曲してくれている。いつもぴったりの曲だ。どの国にもウケがいい。

 なんだか、義理の弟が感情に関する研究をしていて、一年ほど前に「どんな雰囲気を作りたいときにどんな色、模様、音楽を使いますか」というアンケートに答えたことがあった。そのあと、感情刺激研究とかで、「バーチャル会議をやるごとにどんな色・模様・音楽を使って、その結果どうだったか」、というレポートを出している。

 それにしても、ここの公衆バーチャル会議室は最近できたもので、設備が整っているのが嬉しい。この住宅地ではSOHO人口が出勤人口を上回っているため、市が優先的に建ててくれたのだ。それ以前は「貸しバーチャル会議室屋」がワンボックスカーでSOHO者向けに「バーチャル会議室のご用はありませんか」とこの住宅地を流していたものだ。あの時は回線容量が小さく、データ量の大きい音楽は使えなかった。おまけに、全天型スクリーンに会議室の風景を投影しているので車内でも大広間にいるような感覚になれるが、こないだ議論で興奮してつい立ち上がったら、車の天井に思いっきり頭をぶつけてしまった。とんでもない恥をかいたものだ。もっともそれがあってみんなとの雰囲気がなごんで、その後の話はスムーズに進めることができたが。

 最近不思議に思うのだが、よく国際会議をすると、いろいろな国の人が参加する。俺も日本語で話して、相手の国の言語に自動通訳してくれるわけだ。こないだ、スリランカのシンハラ語を話す人が参加したが、日本語とシンハラ語の通訳ソフトがよくあったなぁと思った。まあ、もっとも俺はインターネットのユーザーだから、うまく通信ができていればそれでいいのだが。

 

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5.ある教授の話
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 ・OSI第10層:言語レイヤ
 ・MLP(マルチリンガル・プロトコル)
 ・共通言語
 ・感覚レイヤ
 ・感情レイヤ

 今、インターネットのプロトコル移行完了パーティーでジュネーブに来ているんじゃ。インターネットでは、今年でようやくOSI第10層、ランゲージ・レイヤ(言語レイヤ)までの共通化への移行がようやく終了しおった。つまりこれまでのTCP/IPではなく、MLP/IP(マルチリンガルプロトコル/インターネットプロトコル)がインターネットの標準となったんじゃ。いやぁめでたい、めでたい。これでインターネットの中では共通言語でやり取りされるようになったから、日英とか独仏とかの個々の翻訳ソフトを用意しなくて済むということじゃ。

 ちなみに、最近の話題はもっと上の層の感覚レイヤや感情レイヤの話が出ておるな。感覚通信については一部の国で実用化されているからそのうち標準化勧告ができるじゃろうが、感情通信についてはもっと感情についての研究が進まなければ不可能じゃろうな。

 そういえば娘の婿はしょっちゅうバーチャル国際会議をやっておるようだが、どうしてそんなことができるようになったか、わかっておるのかねぇ。

 

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6.ある女子高校生の話
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 ・感情電子メール
 ・任意の人の声質で音声合成

 今度、おじさんの研究所で新しいメールソフトを開発したんで、そのモニターを頼まれているの。このメールソフトではどんな気持ちがどれくらいかをメールに添付して送ると、相手がメールを読むときにその気持ちにふさわしい色や音楽が流れるようにできるのよ。もちろん、彼とのメールに使っているわ。

 彼に渡したメールソフトには、私が心を込めていろいろ設定しておいてあげたわ。特に、「好き」を最大レベルにして送ると、昨年のクリスマスに一緒に入った喫茶店でかかっていた思い出の曲が流れるようにしてあるの。背景画像はあの時二人で撮ったプリクラ。もちろん、私からのメールを自動読み上げすれば、合成音声で私の声が流れるようにしてあるの。彼はあの時の気持ちを思い出してくれるかしら。

 

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7.再び、研究者の話
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 ・感情通信の難しさ
 ・音楽刺激、色刺激

 今、音楽や色の刺激の波動パターンと、それによって生じる感情波のパターンの相関を調べている。感情刺激研究でレポートをお願いしている義理のお兄さんはSOHOビジネスマンだけあって、バーチャル国際会議では国に特化しない曲や色を使っているので非常に参考になる。しかし姪っ子にお願いした感情電子メール実験モニタの方は、彼とだけの個人的な思い出が強すぎて、一般用としては参考にならない。しかし、改めて感情というものの複雑さをまのあたりにした。

 感情がわきおこるときは、感情波の影響だけでなく、各人の記憶からもおおいに影響を受けるのだろう。つまり、その人の個人の思い出やその国・民族の固有の文化とか元型とかが大きく影響するのだろう。感情波はそれらの要因のごく一部かもしれない。つまり、うれしいときにはうれしいという感情波が放出されるが、逆にうれしいという感情波をあびせたからといってうれしいという感情が必ずわきおこるかというと、必ずしもそうはならないようだ。

 3年前に「感覚通信」が医療分野で実用化されたので、「次は感情通信!」なんてマスコミが騒いだが、そううまくいくものではない。今のところはむしろ、感情波を直接伝達するよりも音楽や色で間接的に伝える方、つまり音楽刺激、色刺激を用いた方が現実的かもしれない。ただそうなると、ある文化ではこの音楽はどんな感情を呼び起こすか、といったことについての標準化が必要になってくるだろう。また、1997年のポケモンTV事件のようなことがないように、脳と音楽刺激、色の刺激との関係をもっとよく研究していかなければならない。

 

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8.再び、SOHOサラリーマンの話
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 ・PHSでの音声ナビゲーションサービス
 ・声質データの販売
 ・PHS拡張スロット
 ・携帯インターネットテレビ
 ・地上波テレビ協会ホームページ
 ・携帯テレビのチャンネル設定自動変更

 今日は高校のクラブの同窓会で、久しぶりに東京へ出てきた。こればかりはバーチャルでやるわけにはいかない。しかし東京はいくつも同じような通りがあって、良くわからない。おまけに俺は地図を見るのが苦手だ。そこで、PHSの音声ナビゲーションサービスを利用することにした。

 サービスセンターへ電話すると電波発信地点を認識して、自動的に案内の合成音声が流れてくる。
「今いるところは、青山一丁目交差点、ですね?」
「はい」
「そこから、○○通り、を南、へ・・・・」
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 なんとか会場に辿り着けた。まだ時間があるので、東京でないと買えないものを買うことにする。
「この近くで、安室奈美子の声質データカードを売っている店に行きたい」
「ただいま、在庫確認を、しています・・・そこから、歩いて、5分、のところの、××書店、で売っています。そこでよろしいですか?」
  :

 喫茶店に入って、声質データカードをPHSの拡張スロットにセットして天気予報を聞いてみた。やっぱりいいもんだ。オプション機能で、歌いながらにすることもできるそうだが、聞き取りづらくなるので、それはやめておくことにした。

 まだ時間があるので、携帯テレビでニュースを見ようと思ったが、映らなかった。そういえば、ここは東京だったのだ。これは長野地方のチャンネル設定のままだった。さっそくPHSをつなげてインターネットテレビにして、地上波テレビ協会ホームページへアクセスし、「現在の地域でのチャンネル設定に変更」ボタンをクリックした。これはPHSの電波発信地点情報に基づいて携帯テレビのチャンネル設定を自動的に書き換えてくれるそうだ。まあ、最近は便利になった。

 

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9.ある男子大学生の話
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 ・内容一致度チェックシステム
 ・レポート内容自動変換システム
 ・レポート検索エージェント
 ・インターナショナル・バーチャル・ライブラリ
 ・学術論文検索エージェント
 ・エージェント知能指数

 この休みの間、ちょっと遊びすぎて、宿題のレポートをまだ書いていない。

 実は、我がクラブの伝統で、学部・学科毎に先輩のレポートがきちんと保存されている。後輩がそのレポートを”参考”にすることによって効率的に勉学にいそしみ、クラブ活動により多くの時間を使えるようにしようという、諸先輩の暖かい愛情の現れなのだ。決して丸写しのためのコピー原本ではない、ということになっている。

 しかし去年まではこれを使えたのだが、今年はどうも難しいらしい。教授陣がいわゆる「レポート丸写しチェックシステム」を導入したらしいのだ。聞くところによると、これまで提出された全レポートがデータベース化されていて、こちらが提出したレポートとの「内容一致度」をチェックして、80%以上だと警告のイエローメールが届くらしい。3回繰り返すとレッドメールが届いて単位を落とす事になるらしい。なんでも人工知能を利用しているので、文言の一致度だけでなく文脈やテーマの展開の流れとかも解釈してチェックするそうだ。

 今、言語情報処理学科の友人が「レポート内容自動変換システム」を開発中なのだが、なんだかOSIの関係で教授とジュネーブに出張しちゃったので、まだできていないそうだ。う〜ん・・・。これは教授陣の策略かもしれない。

 しかたがないので、今回は先日練習試合で対戦した時に知り合った○×大の友人に問い合わせてみることにした。あそこは既に学生の間でレポートデータベースができているそうだ。最近は人工知能を持ったレポート検索エージェントを作ったので、使い勝手が良くなったそうだ。うわさによると、あのインターナショナル・バーチャル・ライブラリの学術論文検索エージェントよりも賢いらしい。非公式だが、1ヶ月前でエージェント知能指数が5ポイント上回っていたそうだ。今はもっと成長しているとのことだ。

 そう言えば彼は、今度ウチの大学から彼の大学へA教授が異動するので、A教授の出した過去の試験問題や模範解答を欲しいと言っていたな。送っておいてやろう。しかし、教授本人の異動よりも先に試験問題データが行ってしまうというのも妙なもんだが、まぁいいか。


1998年1月8日
情報通信総合研究所
国領ゼミにて